放射能

原発事故で放射性物質がばらまかれ、各地で農産物や土壌、水に汚染が出ています。多古町でも、3月にほうれん草が暫定規制値を超える事態が起こりました。原発事故の終息までには、今後、何十年もかかるでしょう。しかし、放射能流出がある程度おさまり、各地で検出される放射線量もかなり低くなっているいま、農産物や土壌、大気の汚染について、私たちはどう考えるべきなのでしょうか。日本大学専任講師で放射線防護学者の野口邦和さんに、多古町の状況を中心に、放射能汚染への考え方と対応についてお話をうかがいました。

多古町の野菜の安全性は?

Q 多古町では、3月25日にほうれん草から暫定規制値を上回るヨウ素131の出たものがありました。表1のように、その後、千葉県が毎週継続して検査している結果では、2回目から規制値を下回り、4月29日からは「検出せず」となっています。また、千葉県産の農産物すべてについて、放射性物質が3週連続して暫定規制値を下回ったとして、政府は4月22日に出荷制限を解除しました。こうした経過から見て、現在の多古町の野菜には放射性物質がないと考えてよいでしょうか?

A 千葉県の検査結果で「検出せず」となっているのは、まったくゼロというわけではなく、「検出限界以下」という意味です。放射性物質は検査に時間をかければかけるほど、試料重量を多くすればするほど検出限界が下がります。

しかし、野菜類の暫定規制値がヨウ素で2000ベクレル/kg、セシウムで500ベクレル/kgであることを考えると、これ以上検出限界を下げることに意味はありません。現時点では、多古町で空気中を漂って降下してくる放射性物質はありませんし、土壌からの吸収も問題ないといえます。

また、当初、多古町のほうれん草から多く検出されたのがヨウ素131だったことを考えると、すでに4カ月も過ぎた現時点では汚染はなくなっているはずです。

Q 私たちは、自然界からも放射能を浴びているのですか?

A ほうれん草などカリウムを含む多くの野菜には、通常、微量の放射性物質が含まれます。また、自然界からの人体の被ばくもあります。国連科学委員会が2008年に報告している数値では、人間が放射線で体内被ばく(吸入と食物摂取)する線量は、世界平均で年間1550マイクロシーベルト、体外被ばくは870マイクロシーベルト、合計で約2400マイクロシーベルトです。日本の場合はもう少し低く、体内で810、体外で670、合計約1480マイクロシーベルトです。

食品を口径摂取する場合、ベクレルをシーベルトに換算する数式は、
ヨウ素131の場合・・・ベクレル*2.2/100=マイクロシーベルト
セシウム137の場合・・・ベクレル*1.3/100=マイクロシーベルト
です。

3月25日の多古町のほうれん草は、1kgあたりヨウ素131が3500ベクレルでした。これをシーベルトになおすと、3500*2.2/100=77マイクロシーベルト。200gの1袋では、15.4マイクロシーベルトだったということです。
つまり、たとえ暫定規制値を超えている食品であっても、1回口にしたぐらいではまったく問題はないのです。

原発事故が起きて以来、放射能汚染を怖がるあまり、輸入農産物の方が安心であるというような考え方が出ていると聞いています。
しかし、食の安全は放射能だけでなく、農薬やポストハーベスト、添加物、重金属汚染など、総合的に考えなければ意味はありません。現在の程度の放射能汚染を気にして、それ以外のものの汚染の恐れが高い輸入農産物に走るのは、本末転倒で意味のないことです。



多古町の農産物放射性物質検査結果
公表日品目採取日栽培状況放射性ヨウ素131放射性セシウム134と137合計
3月25日ほうれん草3月22日パイプハウス350046
3月31日サンチュ3月30日ハウス・水耕33850以下
4月12日ほうれん草4月8日パイプハウス84350以下
4月12日ほうれん草4月8日パイプハウス32650以下
4月15日ほうれん草4月14日パイプハウス26014.6
4月15日ほうれん草4月14日パイプハウス29027
4月22日ほうれん草4月21日パイプハウス94検出せず
4月22日ほうれん草4月21日パイプハウス26検出せず
4月29日ほうれん草4月28日パイプハウス検出せず検出せず
4月29日ほうれん草4月28日パイプハウス検出せず検出せず
5月6日ほうれん草5月4日パイプハウス検出せず検出せず
5月6日ほうれん草5月4日パイプハウス検出せず検出せず
5月13日ほうれん草5月12日パイプハウス検出せず検出せず
5月13日ほうれん草5月12日パイプハウス検出せず検出せず
5月20日ほうれん草5月19日パイプハウス検出せず検出せず
5月20日ほうれん草5月19日パイプハウス検出せず検出せず
5月27日ほうれん草5月26日パイプハウス検出せず検出せず
5月27日ほうれん草5月26日パイプハウス検出せず検出せず
6月3日ほうれん草6月2日パイプハウス検出せず検出せず
6月3日ほうれん草6月2日パイプハウス検出せず検出せず
6月10日ほうれん草6月9日パイプハウス検出せず検出せず
6月10日ほうれん草6月9日パイプハウス検出せず検出せず
6月17日ほうれん草6月16日パイプハウス検出せず検出せず
6月17日ほうれん草6月16日パイプハウス検出せず検出せず
6月24日ほうれん草6月23日パイプハウス検出せず検出せず
6月24日ほうれん草6月23日パイプハウス検出せず検出せず
ベクレル/kg(千葉県ホームページより)

暫定規制値は信用できる?

Q 暫定規制値そのものが、どこまで信用できるのかという声がありますが。

A 『放射能のはなし』(新日本出版社)にも書きましたが、暫定規制値は、もともと原子力安全委員会が決めていたもので、それを事故後に厚労省が採用したものです。この規制値が高いのではないかという人がいますが、年間で5ミリシーベルトなど上限を決めて設定しているので、けっして高くはないと考えます。

たとえば、チェルノブイリ事故のあと、牛乳の出荷制限は1Lあたり3700ベクレルでした。これを見ても、日本の暫定規制値の1Lあたり300ベクレルは高いとは言えません。

大事なことは、暫定規制値はあくまでも原発事故が起きた時点での規制値であるということ。WHOの飲料水水質ガイドラインでは1Lあたり10ベクレルとされていますが、この数値は平常時の勧告数値なので、これと比較しても意味はありません。
WHO自身が、このガイドラインを環境中に放射性物質が放出されているような緊急時における飲料水に適用してはいけないと述べています。

仮に規制値を低くしたとしても、ほとんどのものが規制値を下回っていて、むしろ検出限界前後となっている現在の状況では、それで国民の被ばく線量が減るわけでもありません。規制値の見直しは、事故が終息し、確実にこれ以上放射性物質が出ないとなった時点で十分です。

事故が終息すれば、いま年間5ミリシーベルトで設定している規制値を、年間1ミリシーベルトなどに下げるのは当然だと思います。

多古町周辺地域での水田土壌の放射性セシウム濃度調査結果
サンプル採取市町村サンプル採取日放射性セシウム(ベクレル/kg)備考
合計放射性セシウム134放射性セシウム137
香取市2011年3月31日247120127水田
香取市2011年3月31日262129133
旭市2011年3月31日7033.436.5
※千葉県においては、作付制限のおこなわれる水田はありません。(千葉県ホームページより)
多古町の空間放射線量測定結果
地名測定地点名測定値(マイクロシーベルト/時)地形の形状測定日・天候
1.0m0.5m
多古町多古町大門(久賀小学校)0.150.146月15日
曇り
多古町多古(多古第一小学校)0.110.126月15日
曇り
(千葉県ホームページより)

土壌の汚染は?

Q 田植えが始まるまえの3月末の時点で、千葉県が分析した各地の土壌中放射能濃度があります。「多古町周辺地域での水田土壌の放射性セシウム濃度調査結果」表のように、多古町近辺では放射性セシウムが1kgあたり250ベクレル前後という数値でした。千葉県では、米の作付けが制限された田はありませんでした。

水田土壌中の放射性セシウム濃度上限値は、「玄米中の放射性セシウム濃度が食品衛生法上の暫定規制値500ベクレル(1kgあたり)以下となる」よう、5000ベクレル(1kgあたり)と定められています。
これらの数値からみて、米の安全性についてどのように考えられますか。

A 規制値よりはるかに低い放射能濃度なのですから、米にもまったく問題はありません。
もともと土壌中には、カリウム40などの天然放射性物質があります。カリウム40でいえば、体重60kgの人の体内には常時3800ベクレルあり、私たちは年間170マイクロシーベルトの体内被ばくをしています。
体重1kgあたりのカリウム40の放射能は大人から乳幼児まで同様なので、誰もが年間170マイクロシーベルトの体内被ばくをしています。そのうえ、冷戦時代の世界各国の核実験によって、セシウムが大気中にばらまかれて土壌に沈着したものもあります。

多古町周辺の土壌汚染が250べクレルだとすると、玄米へのセシウムの移行係数は0.1とされているので、その水田で育てた玄米1kgで0.25ベクレル。これを365日食べたときの被ばく線量は、21.6マイクロシーベルトに過ぎません。

放射能は玄米部分に集まるから、玄米より白米のほうが、安全だと考える人がいますが、いずれにしてもこの程度の線量なのですから、多古町周辺のお米に対してそこまで神経質になる必要はまったくありません。
また、この程度の数値の田畑で、土を入れ替えるなどの除染の必要はありません。

しんのみくうかんで遊んで大丈夫?

Q 千葉県が発表している大気環境の放射線量等の測定結果では、最新の7月16日時点で、1時間あたり0.043マイクロシーベルトという数値になっています(市原市の県環境研究センター)。
また、「多古町の空間放射線量測定結果」の表のように、多古町での測定では、6月15日時点の小学校の校庭で、1時間あたり0.15、0.11マイクロシーベルトという数字が出ています。このような条件下で、子どもが屋外で遊ぶことについてはどう考えますか?

A 千葉県全体の大気環境の数値は、ほぼ平常時に戻っています。事故前の平常時の数値は、多古町に隣接する佐原で0.065になっています。それと比べると、多古町の小学校校庭での数値が倍ぐらいになっていますが、これも心配するような数値ではありません。

たとえば、長野県内で0.13、岐阜県内で0.12などと、もともと、自然界でも平常時に0.1を超えるような地点が国内にもたくさんあります。その数値が問題にされたことはないのですから、0.15であっても心配すべき数字ではありません。

放射能汚染に神経質になるあまり、精神的ストレスをためこんだり、子どもたちの発育や楽しみの機会を制限したりすることは、逆にマイナスになることだと思います。
暫定規制値以下の国産農産物をしっかりと食べて、放射能も早めに体外に排出できる健康な体を築いてあげることが、子どもたちにとっても必要なのではないでしょうか。

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